1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

日本オリエンテーションは、マーケティングをR&Dする事務所です。
考えるヒント:商品開発のセオリー スパーキング

16. 新商品は成長の原動力

こんな驚くべき話

新商品の開発の成功率は1/10と、大変リスクの高いものです。
それではなぜ失敗するのかを、私の今までの商品開発コンサルティングの経験から述べてみたいと思います。
以前から「商品コンセプトバンク」づくりの提案をしていました。多数の商品コンセプト仮説を開発して、貯金箱に入れて、市場、競争の変化に対応して、スピーディーに対応する仕組みです。「商品コンセプトバンク」についてはまた詳細に述べたいと考えています。
ある企業から、「商品コンセプトバンク」を作りましたと連絡を受け、話を聞いてみました。パンメーカでした。

新しいけれど魅力がない製品

パンの製品属性として、パン生地素材リストを20、パンに入れる具のリストを30、パンの形態を30のリストを作成し、組み合わせて「商品コンセプトバンク」を作る構想でした。何百、もしかしたら何千もの、今までにないパンを作ることが可能かもしれません。例えば、1メートル×1メートルの大きさで、5センチの厚さのパン。しかし、こんな大きなパンをメリットして感じ、素晴らしいと評価してくれる人はどんな人か思いつきません。
今までにはないパンですが、誰も魅力度と感じません。
もし魅力として感じるとしたら、引きこもりの人の2週間分の食事パンとして考えられますが、マーケットとしてみると開発に値しないパンです。
今までにないパンですが、生活メリットがありません。
極端な話ですが、こんな製品を作っても成功するはずがありません。
ここでなにが問題なのでしょうか。

「製品」発想が失敗の原因

「商品」と「製品」とは違います。
「商品」とは消費者の主観的評価による生活メリットです。
「製品」とは物理、化学的に客観的に表現できるものです。
デジカメの300万画素などは「製品」特性です。
300万画素だと、メールで送ってもきれいな画像が送れるとすると、「メールで送ってもきれいな画像」が「商品特性」です。消費者が欲しているのは、300万画素ではなくて、「メールで送ってもきれいな画像」という、生活メリットです。魅力的な「生活メリット」とそれを満たすための300万画素という製品属性です。

ある住宅メーカーで、商品コンセプト開発のブレストをしていました。担当者から、「和室二間続き」の住宅はどうでしょうか、の提案がありました。製品発想です。誰が「和室二間続き」を欲しているのかの質問に、田舎の長男は親の葬式を自宅で出す、そのために「和室二間続き」が必要なのだと説明されました。私からの提案は、「田舎の長男の家」を開発しよう、田舎の長男は住宅にどんな「生活メリット」を求めているのか、みんなで話し合い商品コンセプトを開発したことがありました。「商品」発想です。

消費者が欲しているのは「生活メリット」です

冷蔵庫のコンセプト開発に参加したことがありました。
開発担当者から、当社の冷蔵庫は優秀だという話を聞きました。コンプレッサーが他社と比べてコンパクトと言うことでした。コンパクトだと庫内容積が多くとれますね、どのくらい庫内容積が広がるのですかの私の問いに、担当者はちょっと得意顔で、タマゴが2個余分に入ると話してくれました。
私は愕然としてしまいました。
タマゴが2個余分に入る冷蔵庫をスゴイと評価する人がいるのでしょうか。
タマゴ2個余分は生活メリットになっていません。

この話は20年近く前の話です。今はこんな開発者はいないと思いがちですが、まだまだいるのです。
「白いビールはおもしろいでしょう。」「世界最小のデジカメです。」
私は、それは誰にとってどんな「生活メリット」があるのですか、いつも問いを発しています。今までになく、新しく、わかり易い、「生活メリット」の提案がない商品は成功しません。

日本オリエンテーション 松本勝英

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