1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

日本オリエンテーションは、マーケティングをR&Dする事務所です。
考えるヒント:メルマガ「SDP:Sensory Design Program−感性価値設計開発研究所」

【SDP:Sensory Design Program メルマガ】第48号

配信日:2016年7月1日

‥‥…………………………………………………………………‥‥・・・
■■■        官能開発のメールマガジン
■□■   ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■     発行者:日本オリエンテーション
■□■       毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
・・‥‥…………………… by Japan Orientation ………………‥・・・

■□SDPメールマガジン No.48 □■
官能を使って価値を開発する【官能開発】のメールマガジンです。日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英の共同メルマガで、お陰さまをもちまして通号で48号、まる4年になりました。

◆INDEX
1.『「官能・感覚」とゆらぎ』大西正巳
五感を通じた色々な評価や感情を古くて新しい視点「ゆらぎ」の面から少し考えてみたいと思います。

2.『社内パネルの利便性と潜む危険』高橋正二郎
社内パネルは消費者パネルの代用としての利便性はありますが、不適切な運用がもたらす損失も大きいようです。

■『「官能・感覚」とゆらぎ』大西正巳
官能力、特に嗅覚能力は年齢とともに低下するという調査結果があります。しかし五感を積極的に働かせ、またアクティブな生活をおくることにより官能力(感脳力)は維持可能とも言われています。個人的には酒類のテイスティングを欠かさないことや飲食時に香り・味わいを意識的にみることを心がけています。官能力は「官能意欲の深さ×適切な官能方法×官能経験量」の関係で決まると考えていますが、年齢を重ねるにつれて官能時の集中力がより大切になってきたと思えます。また身近な酒類・飲料・食品の新製品が発売されれば出来るだけ官能評価を行い、その製品やマーケットの情報と合わせて商品力を考察することも有用です。類似製品と競合製品を含めたマップやチャートなどのビジュアルを自作し、製品の強み・弱みと今後の方向性などを分析すること、そして一定期間後に当初の分析結果を振り返ることが大切と思えます。
様々な官能評価を続けていると「おいしさとは」「個性とは」「香味(成分)の役割とは」「嗜好とは」「人の感覚・官能とは」というのを常に考えさせられます。これらは永遠のテーマかも知れませんが、「おいしさ」は無限に存在しますので未知なるおいしさの開発と個性的な魅力の方向性等について興味は尽きません。
さて心地良さや美しさそしておいしさに影響を及ぼす要素のひとつとして、あるいは切り口として「ゆらぎ(f分の1ゆらぎ)」があります(f=振動数や波長)。ゆらぎは1925年に真空管の電流の“雑音”として観測されて以来、興味ある現象として多々研究されてきました。宇宙を含む自然界は「1/fゆらぎ」に満ちており、せせらぎ、潮騒、そよ風、鳥のさえずり、木漏れ日、星のまたたき、木目、気温、絵画、手作り品など五感すべてに関係しています。そしてミクロな香り・味わいの「つくり」についてもゆらぎの影響を受けていると考えられます。また宇宙を起点として自然の中で生まれ育った人間自身の生体のリズム(例えば心臓の鼓動や目の焦点、拍手、免疫細胞のシステム)もゆらいでいると言われています。経験や知識を呼び起こす際に神経細胞は単調なリズムでなくゆらぎながら活動するそうですが、そのゆらぎが大きい人ほど「ひらめき」も早いと報告されています(大阪大・脳情報通信センター)。また物を見たり聞いたりする際に適度なノイズがあると感知しやすくなり、見えなかった特徴があぶり出される(確率共鳴)という報告もあります。香りにおいても、微妙なバランスの違いやノイズ(雑臭)が漂うと嗅覚が高感度になり、香りのアンテナの幅も広がる気がします。
ただ現在、医学界では1/fゆらぎが人体に好影響を与えるかどうかという意見は分かれているようです。外界の色々なゆらぎと我々自身のゆらぎが共鳴する時に心地よさやおいしさが自覚されると考えられるため、1/fゆらぎの科学的な現象と感覚的評価や嗜好評価との関連性を更に追及していくことに意義があると思います。

■『社内パネルの利便性と潜む危険』高橋正二郎
官能評価は人の感覚を用いてモノの特性を評価するもので、その官能評価をする人をパネルといい、パネルにはいろいろな人がいます。工程パネル、専門家パネル、審査会パネル、また、消費者パネル、社内パネル、被験者パネルなどです。
工程パネル、専門家パネル、審査会パネルは、官能評価を生業とするプロフェッショナルで、それぞれ仕事に応じた優れた官能評価能力をもち、仕事に対する遂行力や倫理観を持ち合わせています。一方、消費者パネルや社内パネルなどは、官能評価のテストに協力する立場の方でプロではありません。官能評価の現場では、官能評価の専門家の指導のもとでテストを敢行します。
通常、感性価値の官能特性の測定は専門パネルで事足ります。それでも、嗜好に関することや個々の感じ方に関することは消費者パネルなどの力を借りなければなりません。ところが消費者パネルを利用するにはいろいろな障害があります。まず、該当する属性の方を一定数集めるのが大変です。また、パネルとして協力していただくには趣旨への同意も必要で、謝礼も発生します。という訳で、消費者パネルは手間、時間、お金の掛かる厄介な存在でもあるのです。そのようなとき、消費者パネルの代用として活用するのが社内パネルです。社内パネルは、身近にいて集めやすいこと、同意の取り付けが容易なこと、そして、謝礼も少なくて済むこと、ということから安直に使われてしまう傾向があります。そこには、細心の注意が必要です。
たとえば、Aというテスト品の香りの嗜好を確かめようとして、社内パネルに「あなたは、Aが好きですか」という質問をしたところ、消費者パネルとは程遠い回答が返ってくることがあります。まず、突然評論家になってしまう人がいることです。「あなたは、」と訊いているのに、「これなら好きな人はいるかも知れない」と余計な考えのもとに、本心は「どちらでもない」か「やや嫌い」にも関わらず、「やや好き」と回答する人がいるのです。もっとも、消費者パネルにもこのような方は100人に2〜3人はいらっしゃいますが、社内パネルには評論家になってしまう方がとても多いのです。また、妙に気を利かして、会社や開発の立場を賢察してしまう人もいます。速やかな発売につなげたいという一心から好意的な評価をする人もいれば、不必要な厳しさから何が何でも不可という人もいます。このような状況から、開発の段階での社内パネルの利用はさすがに減少傾向にあります。
社内パネルの失敗例でよくあるのは、現行品の改良の場面です。化粧品の例ですが、コンパクトの鏡のコストダウンを画策したとき、採用か不採用かの確認作業での出来事です。従来はガラスに銀メッキを施したもので、演色性に優れ顔色が生き生きと写る特徴があります。これをアルミ蒸着のものに替えると、20分の1のコストになります。ただ、若干ですが顔色が青めに写るといわれていました。この差を許容できるか、実用上問題はないか、という判断を迫られた商品開発部の担当者はお客さまの立場での判断が必要と考え、社内パネルによるテストを計画しました。ここで、担当者が官能検査を少しでも承知していれば、3点識別法などの手法を用いて識別をはかったと思います。ところが残念なことに、テストは2つの試料を提示して「AとBの違いがわかりますか」という質問をしてしまいました。すると、社内パネルのほとんどが「私の目はごまかせないわよ」とか「俺の目は節穴ではない」というような立場になってしまい、改良案はあえなく棄却となってしまいました。市場をよく知る関係者の中からは嘆く声が続出しましたが、後の祭りでした。
この件を踏まえて、有望なコストダウンの改良案が不採用になったときの経過を遡って調べてみると、不採用は必ずと言って良いほど社内パネルを使った識別テストによるものでした。テストの手法の選択にも問題がありますが、社内パネルは第1種の過誤、つまりアワテモノの過誤がどうしても増えてしまうのが避けることのできない宿命のようです。

………………………………………………………………………………………………………………………
◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
………………………………………………………………………………………………………………………

≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。

■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。

■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを33年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。

■■■.......................................................................................‥‥・・
■□■「SDPメルマガ」
■■■ 第48号(2016/07/01) (c) 2012Japan Orientation
■□■ 発行者 日本オリエンテーション 大西・高橋・松本
・‥‥.......................................................................................‥‥・・

前号 次号