1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

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考えるヒント:メルマガ「SDP:Sensory Design Program−感性価値設計開発研究所」

【SDP:Sensory Design Program メルマガ】第41号

配信日:2015年12月1日

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■■■        官能開発のメールマガジン
■□■   ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■     発行者:日本オリエンテーション
■□■       毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.41 □■
官能を使って価値を開発する【官能開発】のメールマガジンです。日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英の共同メルマガで、お陰さまをもちまして通号で41号になりました。

◆INDEX
1.『官能評価と科学・技術の進歩』大西正巳
嗅覚や触覚のセンサーあるいはディスプレイの研究開発が活発ですが、これらはIoTやインダストリー4.0にも活用されていくようです。

2.『シフター:コンセプトを商品価値に換える魔法の杖』高橋正二郎
コンセプトを商品の仕様に確実に展開するにはシフターという変換子が必要です。寸法や形状なら図面がシフターに、味覚・嗅覚・触覚にかかわる感性価値にはQDAがシフターになります。

■『官能評価と科学・技術の進歩』大西正巳
人の行動量をウエアラブルな加速度センサーで測ることによりその人の「ハピネス(幸福度)」が分かると言われています(日立製作所)。また特定の化学成分を精度よく検知するセンサーが色々と話題に挙がっていますが、身体からの信号のみならず感覚・官能というアナログもデジタルなデバイスと更に融合していく方向だと思います。各種の味覚センサーは既に実用化されていますが、最近のトピックについては「超嗅覚・生物センサー(サイエンスZERO:NHK・Eテレ2015.10.25)」と「嗅覚センサー(日経ビジネス:2015.7.20)」でも取り上げられました。特にガン、糖尿病、腎臓病、肝臓病などの患者から発生する臭いを見極める犬や嗅覚受容体が人間の3倍以上と言われる線虫のガン成分の識別、あるいは麻薬や爆薬の揮発成分を探知する犬やネズミ、ミツバチの訓練などの興味深い現状が紹介されています。また、昆虫の嗅覚メカニズムを参考にして細胞に組み込み、特定の匂いに反応するセンサーやロボットも開発されつつあるようです。そして産総研が開発した呼気中の水素濃度センサーは既に人の消化吸収機能の強弱判断に用いられています。また物質・材料研究機構が開発した膜型表面応力センサーはセンサー素子表面の感応膜に空気中の分子を吸着・検知させてガン患者の呼気の判別、あるいは豚肉、コーヒー、緑茶のにおいによる種類判別が可能であり、官能検査の自動化にも応用できると言われています。一方、ワイナリーなどの酒類製造現場や飲み屋で見かけるショウジョウバエも一種の揮発成分のセンサーだと言えますが、最近では乳ガンに由来する成分の識別も可能なようです。ショウジョウバエはフルーツ・フライと言われるように果実の香気成分を好み、アルコール類の香気にも好んで寄ってきます。余談ですが、テイスティング・グラスに熟成期間の異なるウイスキー原酒を入れて室内にショウジョウバエと共に一晩放置し、翌日グラスの中に飛び込んでいるハエの数を調べたことがあります。その結果、熟成期間が長くなるほど多く入る傾向を示しました。フルーティな成分(低沸点のエステル/アルデヒド類)や甘い熟成香がその誘因物質と考えられますが、それらは基本的に樽熟成と共に増加します。
さてIoTは日常の生活を便利に、人を健康で豊かにするツールのひとつだと思いますが、生身の人間は「things」ではなく、リアルな感覚と感情を持っています。総合的にしかも瞬時に評価/判断する人間の感覚は、センサーよりも複雑で、場面や状況、経験に応じて感覚的な捉え方や嗜好もゆらぎます。
今後、アナログな「感覚・官能」と「サイエンス(脳科学や心理学、生理学など)」と「テクノロジー(各種センサーやフレーバー解析技術、感性工学、物性工学、fMRI分析など)」の三つをうまく連動させて官能評価と嗜好や感情との関係をより深く追求することが必要です。いずれにせよ我々の「感覚・官能評価」はサイエンスやテクノロジーへの「入口」であり、また「出口」であると信じます。なお飲料・食品分野では、QDA評価の充実と共に地道なフレーバー分析を通じて官能特性に直結する(代用特性)成分や組成を出来るだけ把握することが重要です。
QDAパターンと成分パターンを両輪に、製造法とも結び付けると「おいしさの評価と開発」を進めるための強力な金棒になると思います。

■『シフター:コンセプトを商品価値に換える魔法の杖』高橋正二郎
商品開発の場で苦しむのは何と言ってもコンセプトを創り上げることでしょう。次は、このコンセプトを商品への具体的な仕様に展開することだと思います。この作業がなくては、やっとの思いでできたコンセプトも商品に反映されないので、コンセプトを苦労して創った意味がありません。
コンセプトを具現化する商品仕様にはいろいろあり、例えば、寸法、形状、重量、配合率、出力、などです。このうち寸法や形状は、比較的間違いなくコンセプトが反映できる仕様の要素かと思います。寸法は長さを測ることによって、形状は図示することで可能です。この2つの要素を統合したのが縮尺図面で、ルネサンスの巨匠ブルネレスキが考案したといわれています。フィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレのドームは彼の手による作品ですが、画期的なドームの施工には新技術の縮尺図面が大きな力を発揮したことと想像できます。ブルネレスキの頭の中に思い浮かんだコンセプトの意匠や構造はかなりの精度で図面の中に投影され、伝わり難かった意匠や構造も縮尺図面により建設に携わる人たちに間違いなく伝達されたことと思います。現在、これほど便利に使用されている図面ですが、まさにコンセプトを具体的な価値である意匠や構造を視覚的に換える魔法の杖である訳です。この魔法の杖を図面に限らず、さまざまな仕様に展開する魔法の杖がある訳で、これらを総称して「シフター」と言います。寸法や形状のシフターである図面は設計図と呼ばれ、設計図の上で検討ができ、コンセプトとの反映を更に強めることが可能です。この設計図に相当するものとして、電気の世界なら回路図、クスリや化粧品なら処方がそれぞれシフターになるでしょう。
そこでSDPの登場です。おいしい味づくり、ステキな香りづくり、気持ちのよい感触づくりなどの開発にはこれまでQDAを駆使したSDP(Sensory Design Program)を紹介してきました。QDAは五感に関わる感性価値の具体化におけるシフターであったわけです。ただ、QDAで使用された変量や変量を示す単位は、寸法の場合のメートル法のような普遍性のあるものではありません。変量、つまり評価用語は、一部を除いて各メーカーが自社のモノづくり文化に則った評価用語を選び、評価用語の表すところを定義し、その尺度を設定して利用します。この作業は甚だ面倒かも知れませんが、一度決めれば感性価値の共有化と価値の深化に大きな力となるに違いありません。
一方、味覚、嗅覚、触覚などの感性価値についてはQDAがシフターとして有効に稼動しますが、パッケージイメージや告知や販促へのビジュアル展開などはQDAではシフターになりきれないこともあります。当座のシフターとしては、いろいろな写真などを切り抜いてコラージュ的に貼り合わせるイメージボードが使われています。これも系統的に研究をすれば、QDAのようにプロトコルが確定されたシフターになることも可能と思います。
コンセプトのすべてを商品で完全に表現するためには、すべての商品仕様にコンセプトが反映されている必要があります。商品の開発の現場ではコンセプトを対応する価値に確実に変換できるシフターを探すことが、コンセプトを具現化するためには必要不可欠であることがわかります。

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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。

■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。

■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを32年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。

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■□■「SDPメルマガ」
■■■ 第41号(2015/12/01) (c) 2012Japan Orientation
■□■ 発行者 日本オリエンテーション 大西・高橋・松本
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