1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

日本オリエンテーションは、マーケティングをR&Dする事務所です。
考えるヒント:メルマガ「SDP:Sensory Design Program−感性価値設計開発研究所」

【SDP:Sensory Design Program メルマガ】第36号

配信日:2015年7月1日

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■■■        官能開発のメールマガジン
■□■   ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■     発行者:日本オリエンテーション
■□■       毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.36 □■
官能を使って価値を開発する【官能開発】のメールマガジンです。日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英の共同メルマガで、お陰さまをもちまして、通号で36号になり、3年続いたことになります。

◆INDEX
1.『酒類ユーザーの官能動向』大西正巳
ユーザーの官能評価力や専門的な情報の収集力は向上しており、メーカーの対応方法のイノベーションも時には必要です。

2.『皮膚感覚の研究と官能特性の機器測定化の最近』高橋正二郎
皮膚感覚の研究が日進月歩で進む一方、化粧品の官能特性の機器測定も進歩しています。

■『酒類ユーザーの官能動向』大西正巳
ユーザーの官能評価の内容や嗜好を知るには色々な調査方法がありますが、飲食現場での行動観察や生の意見交換がやはり質的な情報源として有用です。個人的にはウイスキーや焼酎、清酒などのイベントやテイスティング会で得られる参加者のフリーな品質コメントや酒に対する考え方が大変参考になります。ウイスキー関連のイベントには国内外のウイスキーの蒸溜所所長やブレンダーは勿論のこと、バーや飲食店の関係者、それに一般のウイスキー・ファンが数多く参加します。
最近では特に若い男女が増え、固定概念を打破する斬新な意見や嗜好の傾向などの新しい波に接することができます。また造り手とユーザーの官能的な言葉の用い方と意味合いの微妙な違いなど香味的な評価のバイアスを確認する良い機会になっています。専門家が品質的にマイナスと思える香味でも独特の特徴として好ましく捉えるユーザーもいるため、おいしさの面だけでなく、一般に「臭み」と して捉えられている特徴についてのユーザーの様々な評価/意見も見逃せません。フレーバー成分の多くはうまみとくさみの印象を併せ持ち、その濃度と他成分との組成的な関係で振れますが、ユーザーの評価は感覚感度や嗜好に勿論左右されます。
さてウイスキー(特にモルト)のユーザー層は、まず低価格のウイスキーから段階的にグレードアップし、ゴールの一つとしてシングルモルトに至った飲用経験豊富な層、チューハイやビールからウイスキーのハイボールに移行し、更にウイスキー本体の味わいに惹かれてシフトしつつある層、そして比較的若い人に見られますが、余りウイスキーに馴染みがなかったものの何らかの機会でシングルモルトを飲むこと(知ること)があり、直ぐに香味的な魅力の虜になった層に大別できると思います。この三番目の層は情報感度も高く、初期に接する酒類あるいは情報次第でワインや清酒の熱きファンになっていく場合もあります。そして多くの場合、その酒類の個性や魅力を次々と探索的に味わうことと、製品や「つくり」に関連する知識/情報を吸収することに意欲的です。酒類のイベントのみならず、例えば蒸溜所でのプロによるテイスティング・セミナーやブレンド・セミナーにも積極的に参加しています。そのため経験豊富なユーザーの官能力と識別力の高さや製造方法/設備等の専門知識は造り手も驚くほどです。
また色々な酒類のイベントで「おいしいもの/個性豊かなもの/ホンモノ」を飲みたいという声をよく耳にします。それらが背景になり「その製品はなぜ美味いのか、そして個性/魅力を支える香味の特徴は何か、他製品との相違点はどこからくるのか」という関心が強くなっています。自分なりの官能的/感覚的なモノサシを確立し、積極的に製品の選択眼/コスト・パフォーマンスの納得性を高めたいという狙いを感じます。メーカーとしては、各ユーザー層の特性に応じた不易流行的な複数の訴求シナリオと場面開発がより重要になってきたと思います。

■『皮膚感覚の研究と官能特性の機器測定化の最近』高橋正二郎
化粧品をめぐる皮膚感覚の研究や官能特性の機器測定における最近の進展には目を見張るものがあります。特に、皮膚の感覚は最近目覚しく、研究の遅れの目立つ触覚や皮膚感覚に関する新しい話題が世界中から集まってきています。皮膚にはメルケル細胞、マイスナー小体、パチニ小体、ルフィニ小体の4つのセンサーがあり、これらの働きが最近少しずつわかってきました。それぞれのセンサーは、皮膚と物体の間のすべりを感じたり、振動を感じたり、デコボコした形を感じたりしていますが、それらが選択的もしくは複合的な働きで、さまざま状態を感じ取ることができます。この研究は近年益々勢いを増していますので、近々大きな発見が期待できそうです。一方、化粧品の官能特性の機器測定化も研究者が少ない中で地道な進展を遂げています。中でも大阪大学の秋山庸先生は化粧品の重要な官能特性であるしっとりとべたつきの違いを機器測定で解明するなど、さまざまな官能特性の機器測定化に取り組み、成果も着実にあげてきています。
最近ではシャンプーで洗髪するときに現れる「きしみ」の研究は興味深いものでした。「きしみ」はシャンプーなどを使用して洗髪したとき、泡を流すときに泡が消え始めて、泡の相から水の相になりかけていくときに髪と髪が擦れるような不快な感じが起きます。この状態を「きしみ」という訳で、実生活では洗う場面以外でも見られる現象です。例えば、片栗粉を突きかためたときに、キュッキュッという具合に「きしみ」を感じます。このとき発生する反力をもとに解明を進めました。まずシャンプーに浸けた毛髪をブラシでこするときの反力を丁寧に測定し、その計測値に対して周波数分析を行い、「きしみ」の高い試料と低い試料との間でのパワースペクトルの傾きの比較を行うものです。一連の工程を述べてしまえば実に理路整然とすっきりしていますが、ここにまで到達するには、シャンプーの濃度やブラシのこする速度など、深い思考と相当な試行錯誤があったことは容易に想像できます。シャンプーのときの「きしみ」は一瞬に現れる現象なので官能測定が難しい特性でもあり、機器測定が可能になれば官能評価の負担は相当程度軽減されると思われます。
ところで、この「きしみ」という特性を感じているとき、指に微妙な刺激が加わるわけですが、その刺激を皮膚の中の4つのセンサーが働くことによって「きしみ」を感じとったことになります。もし、その状況がわかるようなことになれば、機器測定のモデル化も大きく進展しそうな気がします。

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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。

■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。

■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを32年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。

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■□■ 発行者 日本オリエンテーション 大西・高橋・松本
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