1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

日本オリエンテーションは、マーケティングをR&Dする事務所です。
考えるヒント:メルマガ「SDP:Sensory Design Program−感性価値設計開発研究所」

【SDP:Sensory Design Program メルマガ】第32号

配信日:2015年3月3日

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■■■        官能開発のメールマガジン
■□■   ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■     発行者:日本オリエンテーション
■□■       毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.32 □■
官能を使って価値を開発する【官能開発】のメールマガジンです。日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英の共同メルマガで、お陰さまをもちまして、通号で32号になります。

◆INDEX
1.『官能機能の定期的な棚卸し』大西正巳
定期的に個人の官能スキルと組織の官能(評価/開発)機能の強み・弱みを再確認し、将来のありたい姿を共有することが大切です。

2.『化粧品の色と香り(2)』高橋正二郎
色香の2稿目は香りです。香りはパフューマーの創作による香りとマーケティング手法を重ねた開発的な香りがありますが、今日の香りは長い歴史での経験の賜物です。

■『官能機能の定期的な棚卸し』大西正巳
60才を超えると嗅覚能力が次第に低下し、しかも老年期の低下度合いは女性よりも男性の方が顕著であるというデータがあります。一方、年を重ねても芸術(鑑賞/創作)やスポーツに積極的に関与し、アクティブな生き方をする年配者の官能力は高く維持されるとも言われています。嗅覚・味覚のみならず五感的に幅広く接することに興味を持ち、感性にも響かせることが大切だと思えます。
現役時代に原酒や製品の官能評価をマスターブレンダー(佐治敬三氏)と行う機会が多々ありました。アクティブな彼は70才を超えても官能評価は鋭く、洞察力や記憶力も超一流のレベルでした。彼から叩きこまれた「官能せざる者は去れ」という官能重視の哲学や教訓を現在も忘れないようにしています。
さて「官能・感覚、感性」を最大限に活かした商品評価と設計・開発がますます重要になる時代ですが、そのため基本となる個人と組織の官能評価力と得られた情報(知見・ノウハウ等)の棚卸し、そして強み・弱みの把握が時には必要になります。個人レベルの検知力・識別力・その再現性を含む総合的な官能評価力の現状認識と改善策や自己啓発策は自分の意志で立案・実行していくことが可能です。しかし組織的に官能評価システムや官能人材の育成/開発、そして品質情報の共有化機能等を棚卸しするのは困難なことが多いようです。まずは自社の官能評価スキルや商品設計・開発スキルがありたい姿あるいは競合のレベルと比較して現在どの程度かという認識の共有化が大切です。その内容に応じて組織的な官能機能のハードとソフトの打ち手や優先度が決まりますが、官能評価と官能開発のトータルマーケティングにおける重要性についての経営トップ(少なくとも部門長)の理解と後押しが極めて重要になります。
品質本位/品質第一を掲げるメーカーは多いものの、品質評価の機能や方針に魂が入っていない、官能人材/分析人材を単に便利屋として扱う、品質保証/検査のみに限定する、などによりチームやメンバーのモチベーションが上がりにくいこともあると思います。しかしメンバーとしては、小さくても成功事例を自ら生み出し、提言/提案する努力(ボトムアップ)が大切です。アウトプット事例には、自他社製品の官能評価/成分評価から得られた知見を基に製品戦略や品質/技術戦略の立案に役立つような情報、あるいは「思いや情熱」を具体的に盛り込んだコンセプトや開発試作品の提供などが挙げられます。また自他社製品品質情報のライブラリー化を進め、サンプルの官能評価や品質論議の場に関連部署を巻き込むことも有意義です。自らの働きかけを通じて社内に官能意識やおいしさの評価・開発の意欲を盛り立てていくことが大切です。一方で官能の「鬼」としては、成分知識や製造知識のみならずマーケティング・スキル、コミュニケーション・スキルなどの「金棒」も日頃から磨いておきたいものです。

■「化粧品の色と香り(2)」高橋正二郎
化粧品の色と香りから今回は香りの話をしますが、やはり色と同様、化粧品の業界では香りも逆風が吹き続けています。とはいえ、香りは化粧品のなかでも美学的要素が高く、歴史的な深みも非常に大きいものがあります。その代表が香水であることは言うまでもありません。
香水の類はフランス語ではパルファン(parfum)、英語ではパフューム(perfume)と呼ばれていますが、これはラテン語の「煙らせる」という意味のフマーレ(fumare)によるという説が有力です。現在使用されているフレグランスの多くは香気成分をアルコールに溶かしたものですが、アルコール以前は香炉から身体に焚きつけるもので、現在でもアラブの女性などは夕方になると香炉の上にかがみ込み、大きな布を被って香りを身体に焚き込んでいます。
アルコールを用いた現在の香水のもとはフィレンツェを中心としたイタリアの薬剤師が始めたもので、貴族の御用達の形であったと伝えられています。その後、レディメイドの香水も売り出されたようで、ピエトロ・ロンギという画家がその様子を描いた『香水売り』という作品を18世紀の中ごろに残しています。ヴェネチアの街頭でマッチ売りの少女よろしく手篭に小瓶に入った香水を持った女性がいて、傍には仮面舞踏会用の白いマスクをつけた二人のご婦人が通っていますが、客層がこのような人たちであることを暗示しています。手篭の中の小瓶の数から、かなりの需要があったものと推測できます。この間、薬剤師の片手間仕事から専門の調香師が独立して、それぞれの腕比べになったものと思われますが、それがシャネル#5に代表される現在の香水やオーデコロンにつながっているわけです。これは香りの創造の歴史で、もはや芸術作品に近い存在でもあります。
香水やオーデコロンの香りの化粧品以外の化粧品にも香りには活躍の場があります。通常、化粧品には香りがつけられている訳で、この香りづけのことを賦香といいます。スキンケアでもメーキャップでも賦香され、特に、ヘア化粧品の香りづけは極めて重要です。日本人は香りを身体に直接つけることは好みませんでしたので、根付の香袋などで香りを嗜んでいましたが、髪は別で直接香りをつけて楽しんでいました。方法は香炉からの焚き込みで、平安時代から行われていました。香枕と呼ばれる直方体の箱枕にはたくさんの切り込みが施され、枕の中に小さな香炉を入れて髪に香りを焚き込むというものです。京都国立博物館に伝わる『南部鶴丸紋散蒔絵香枕』は蒔絵の装飾が美しく、香枕の実用を超え造形的な作品としても素晴らしいものです。また、衣服にも香炉から炊き込んだことは源氏物語の「空蝉」の巻で知られていますが、今日の香りつき洗濯助剤の隆盛は平安王朝時代の香りのお遊びの復活を思わせます。
スキンケア化粧品の賦香はヘア化粧品と違って細心の注意が必要です。ヘア化粧品の香りは通常のマーケティングの定石通り、広く受容される平凡な香りより「すごく好き」というお客さまを取り込めないと商売は成り立ちません。ところがスキンケアは「変」とか「好きではない」というお客さまが僅かでもいては具合が悪いのです。香りの心理効果によるものらしく、嫌な香りのスキンケアを続けていると肌トラブルになることがあるのです。昔の苦い思い出ですが、ヘア化粧品で当たったハーバルグリーン系の香りをスキンケアにも広げてみようと思い、気の合う調香師と香りの開発をしました。何回かの試作を経て、いよいよスキンケアの試作を行い、少人数のテストに入りました。テスト開始数日後、2、3人の被験者から「使いたくないのですが」という申し出がありました。そう言われても困るので先輩の女性課長に相談したら、「すぐに中止しなさい」という指示です。そこで急いで中止にしたのですが、ひとりの方は肌トラブル寸前でしたので、このまま続けていたら大変なことになった筈です。ひとの肌は非常にデリケートであることはわかっていましたが、香りの心理的効果がこのような形で及ぶとは改めて肌の繊細さを実感しました。この経験は以後の大切な財産になりました。
香りは創作的な作品もあれば、入念なマーケティング手法の積み重ねで開発されるものもあります。どちらの過程をたどっても、QDAの描いては消し、描いては消しの繰り返しがあって生み出されるものです。香りのみならず、感性価値はしっかりとした記述が質の高いクリエーションを産むということを堅く信じています。

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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。

■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。

■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを30年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。

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■□■「SDPメルマガ」
■■■ 第32号(2015/03/03) (c) 2012Japan Orientation
■□■ 発行者 日本オリエンテーション 大西・高橋・松本
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