1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

日本オリエンテーションは、マーケティングをR&Dする事務所です。
考えるヒント:メルマガ「SDP:Sensory Design Program−感性価値設計開発研究所」

【SDP:Sensory Design Program メルマガ】第24号

配信日:2014年7月1日

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■■■        官能開発のメールマガジン
■□■   ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■     発行者:日本オリエンテーション
■□■       毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.24□■
官能を使って価値を開発する【官能開発】のメールマガジンです。
日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、同 高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英の共同メルマガで、回を重ねて24号になります。

◆INDEX
1.『名人/達人の光る言葉から(その1)』大西正巳
前号の「感覚・感性・匠の技」のテーマに関連して、名人/達人の考え方や経験談の中から印象に残った記事を紹介したいと思います。

2.『未知の感覚へのアプローチ』高橋正二郎
市場の商品から今までにない感覚を感じることがあります。この感覚を確かな感覚として把握するには通常のQDAだけでは難しく、さまざまな手法を駆使して可能になります。

■「名人/達人の光る言葉から(その1)」大西正巳
「匠の技」の裏には優れた官能評価力、固有の感覚、美意識、自然への畏敬の念、ユーザーへの思いが存在し、その全てがアウトプット(作品)とその価値を生み出すプロセスに盛り込まれているように感じます。
日本料理店「かんだ」の神田裕行氏の著書「日本料理の贅沢」とインタビュー記事「カウンター割烹の命はライヴ感覚だ。飽きられぬ秘訣は三口目が勝負(朝日新聞)」の中から興味深い部分を紹介します。神田氏は「京都の店で出された焼きナスが忘れられない。ふくよかでジューシーな南国の果実のよう。誰もが作れる料理を誰も作れないレベルで出されたとき、人は本気で感動する。ただし、すぐに旨いと感じる味付けは飽きる。三口目が勝負。あっさり、しかし食べ進むほどに癖になる味が理想。ひと口目で“ん?”と思った客は味覚のアンテナを立ててくれる」と述べています。これらは酒の世界にも通じるコメントです。例えばどのバーでも飲める一般的なカクテルであっても、バーによっては感動的な一杯に出会うことがあります。勿論、香味的なおいしさだけではなく、バー全体のテイスト、グラス(形状、重さ、感触)、バーテンダーのサービスの仕方など五感的な価値が反映しているとは思います。また確かに酒類でもひと口目のみならず三口目勝負のタイプが存在しますが、飲料・食品の分野で、ひと口目のインパクト、二口目の意義、そして三口目や後味・余韻の働きなど「おいしさのあり方」あるいは「香味の動き/流れと嗜好性」については更に掘り下げる価値のあるテーマだと思えます。また三口目を超えて三度目やそれ以上の経験で次第にクセになっていく香り・味わい(アクワイアード・テイスト)の本質を追究し、分野毎にその評価方法と開発方法を再構築していくことも大切です。
もう一つ神田氏は「酸は料理の切れ味を良くする。スダチ、柚子、シークアーサー、色々な酸を使う。もう少し何かが足りないという時、殆どの場合が香りと酸味だと思う。よくお椀などに柚子の皮を載せたりするがうちは載せない。お出汁にそれを入れてひと煮立ちさせて、全体に酸を出させる。すると香りがパァーと広がる」とも記しています。この酸による香り立ち促進効果は、柑橘類の酸組成や香りの質、香り立ちのメカニズムとは異なりますが、ウイスキーやブランデーと共通する現象と言えます。特に華やかな香りを生命線とするブランデーは、古くからの製造法(技術的には蒸溜/冷却工程での脂肪酸組成のコントロールとポリフェノール豊かなフレンチオーク樽による熟成)がトップノートを官能的に際立たせる効果を高めています。フレーバー間の相互作用による印象の変化や嗜好への影響は複雑ですが、だからこそ官能的な現象をより多く体験し、また色々な達人の創意工夫を参考にすることが大切になります。そしてメカニズムの推察/理解や他への応用(思考錯誤)を進めることにより「おいしさの評価と開発」が更に深まると思います。

■「未知の感覚へのアプローチ」高橋正二郎
市場の商品に触れて、市場の状況を肌で感じることは極めて重要なことです。特に、化粧品のように触覚で感性価値を評価する商品にとってはことさらです。
市場の商品に触れたとき、普段の感覚とは少し違った感触を感じることがあります。化粧品ではよく起きることかもしれませんが、「何だろう、この感じは・・」と思っても、急には状態の把握ができないときがあります。前号では具体的な説明が出来ませんでしたので、昔の経験を書き綴ってみます。
このようなときこそ、QDAを丁寧に描いてみることです。このとき使用する官能変数、いわゆる評価用語ですが、いつもの商品開発用とは少し趣旨の異なる官能変数群で評価をします。通常なら、「のび」、「さっぱりさ」、「べたつき」などのモノつくりに直結した官能変数を使いますが、これらの官能変数に加えて、プリミティブなイメージ用語を官能変数として使用します。例えば、「華やか」⇔「地味」、「明るい」⇔「暗い」、「重い」⇔「軽い」、「くっきり」⇔「ぼんやり」、「強い」⇔「弱い」、「男性的」⇔「女性的」、「動的」⇔「静的」、「新しい」⇔「懐かしい」、といような語群で、前号でも紹介しました。これらの語群は対になっていると意味もとりやすく、扱いやすいです。ただ、どうしても官能変数の数は飛躍的に増えますが、これは仕方のないことで、わからないことを把握するには必要な手続きです。そして、普段と違う感覚の化粧品を評価するわけですが、既知の化粧品も同時に評価しておくことが大切で、感覚は言葉だけでは表現し切れませんから、モノで表現するためにも必要な処置です。できれば既知のものは1品だけではなく、2〜4品あると把握が一元的ではなく立体的になります。
評価したデータが揃ったら視覚化、つまり図解します。通常、QDAはレーダーチャートで示しますが、変数が多いときはSD法的な図解の方が見やすく、理解もしやすくなります。
エクセルでSD法的に図示するならば、折れ線グラフを利用するのが便利かと思います。同じ折れ線グラフ上に、既知のモノと未知のモノを併せて表示をして、既知の値と未知の値を比較しながら見ていきます。
既知の方が評価スコアの値が高く、未知の方が低い官能変数、逆に、既知の方が評価スコアの値が低く、未知の方が高い官能変数があるわけで、差の大きい順にグラフの官能変数の位置を入れ替えて表示をします。未知の感覚を捉えるためには、評価の近い変数から中心に考えますが、対比するように評価の離れた変数も見ていきます。ところが、変数の数が多くなっていて、たとえば50を超えてしまうようなことになる、把握は容易ではなくなり、却って混乱してわからなくなります。
そこで、多変量解析の力を借りることになります。主成分分析、因子分析、共分散構造分析などですが、エクセルの上で簡単にできるものが出回っています。出てきた結果は、早速、T軸とU軸で2次元のマップを描いてみます。同じように、T軸×V軸、U軸×V軸、T軸×W軸、というようにマップを作ります。このうち未知の感覚が解釈できるマップを「未知感覚を捉える官能空間」となるわけで、このマップ上で既知の感覚と比較をしながら解釈をしていきます。このとき、現物を傍に置いて感触を確かめながら実施することは言うまでもありません。常に、 自身の感覚、感性を働かせながらの作業になります。
ところが、多変量解析でえられた官能空間での位置づけは概念的には理解できますが、直接感覚的に響くような同意や同感がえられないことがあります。これは困ったことで、答は出たが納得いかず、役に立たないソリューションということになってしまいます。それは、多変量解析でえられた軸は多様な感覚の集合体で、T軸もU軸も現実に存在する感覚ではないからです。ここは多様な感覚のかたまりである軸をほぐして、構成している元の官能変数に戻すことが必要です。つまり、因子寄与率の大きい官能変数に置き換えていくことになります。中にはマップのイメージが大きく変わってしまい、却ってわかりにくくなる図も出てくることも考えられますが、感覚的に捉えることができるならばこれで十分です。むしろ、これが最初に求めていたものに違いありません。

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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。

■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。

■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを30年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。

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■□■ 発行者 日本オリエンテーション 大西・高橋・松本
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