1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

日本オリエンテーションは、マーケティングをR&Dする事務所です。
考えるヒント:メルマガ「SDP:Sensory Design Program−感性価値設計開発研究所」

【SDP:Sensory Design Program メルマガ】第16号

配信日:2013年11月1日

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■■■        官能開発のメールマガジン
■□■   ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■     発行者:日本オリエンテーション
■□■       毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.16□■
日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、同高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英 の共同メルマガです。お蔭さまで2年目に入っています。

◆INDEX
1.『QDAをベースにした商品開発(その4)』大西正巳
官能を武器に、新商品の企画/新品質の設計・開発を行うには3つのアプローチ法と情報源が決め手になります。

2.『質問の順は、要素からか、全体からか』高橋正二郎
消費者を対象としたテストでは、全体を表わす好き・嫌いの質問が先か、それとも要素から訊くべきか、議論が分かれます。最重要の質問に影響が出ることは避けるべきで、嗜好や総合評価が最重要の質問なら、この質問へ影響を与える全ての質問は後に回す必要があります。

■「QDAをベースにした商品開発(その4)」大西正巳
新商品や新品質を発想し、企画・設計・開発するプロセスは様々だと思います。
中には、白紙の状態から独創的/革新的な商品コンセプトが突然ひらめき、品質スペックや開発/生産方法も的確にデザインできるという素晴らしい事例もあるでしょう。組織的にアイデアを募集し、選抜するシステムもありますが、いずれにせよ個人の感覚/感性と情熱や思いがアイデアを生む原動力となります。ただ個人の気づき/発想は尊重すべきですが、開発・生産・販売へと仕上げるには組織的なシステムとスキルが勿論大切であり、商品開発の成否に影響します。
QDAプロファイルそのものは商品の官能的な特性を示す過去のデータに過ぎません。それらの情報を叩き台として編集・加工し、既存製品の品質向上や今後の差別化あるいは多様化を進める方法は前回述べました。しかし、更にダイナミックに新商品を企画し、品質を創造するには新しい考え方と開発方法が必要になります。
QDA(定量的特性描写法)のツールを武器に今までにない概念の商品(特に飲料・食品・嗜好品の未来品質)を発想/設計するには3つのアプローチ法が有用だと思います。これが官能開発(SDP)の大きな狙いでもあります。

第一の方法は、前々回で触れた自社製品と関連製品を中心にまとめる「品質−技術マップ」の活用です。マップの情報を基に「官能的な特徴(用語)」からの発想と「つくり」からの発想が期待できます。「この特徴を組み立てたい」「こうすると斬新な品質が得られないか」という狙いを定め、官能項目とその特徴の強さをプロファイル化することにより新たな商品設計アイデアが湧いてくると思います。
第二の方法としては、分野を問わずにマークすべき商品をいくつか特定し、構成する魅力(機能や効用)をまず五感的に因数分解します。その中からこれはと思う因数(感覚的要素)に秘める意味合いを抽出し、それを官能用語に落とし込みます。その上で用語を自分野の製品に強制的に当てはめてイメージ・プロファイルを描き、今までにない独自の特性や魅力、そして開発アイデアを見出す方法です。
第三の方法は、時代のキーワード、感性的/情緒的な言葉、オノマトペなどを商品(品質)設計に盛り込み大胆な発想を促す方法です。例えば、健康、くつろぎ、幸せ、セクシー、ラグジュアリー、本格、伝統、しっとり、透明感、潤い、爽やか、艶やかなどの言葉を具体的な香り・味わい・食感、見た目などの官能用語にまず翻訳し、用語の展開表を作成します。そして重要と思われる官能用語をQDA軸に加えてイメージ・プロファイルを何通りか描き、魅力的な案に絞り込みます。
いわゆる独創的な「プロダクト・アウト」を実現する方法の一つにもなります。そのためには常日頃から言葉の意味合い/本質を官能用語に分解・層別し、また関連情報(例えば成分、製法、モデルとなる製品、機能的な特性)も付けた一覧表として作成しておく必要があります。これは個人の知恵だけでは限界があり、企画や開発部門が総力で作成・修正していく基本的な資料だと思います。いずれにせよ官能プロファイルを読み取るスキルに加え、魅力的なキーワードや品質イメージを具体的な設計図(QDAプロファイル)に見える化するスキルが不可欠です。更には、その品質特性を「形」にするスキル、つまり品質プロファイルを実際に造りこむ技術(操作方法)をメーカーとしては備えている必要があります。

■「質問の順は、要素からか、全体からか」高橋正二郎
消費者に食品などの評価をしていただくテストのときによく起きることですが、好き・嫌いのような全体を指すことから質問するべきか、それとも甘みの程度や酸味の程度など、味や香りを構成している要素から質問すべきか、という議論があります。
部分が先で全体は後という論調は、部分から積み上げて全体の評価や嗜好が決まるという流れが論理的に自然だ、というものです。また、市場調査の担当者には、対象者が回答しやすい質問から入るとのことで、氏名、年齢、職業、使用銘柄、使用頻度などの属性部分から入って、本題の質問も部分が先で、大きな判断を迫る質問は最後にするということでした。
別の調査で前の質問が後の質問に影響が出て、何問かの回答が使えなくなってしまうことが起きました。それからは、調査やテストでは質問の影響を最小限に止める努力を払うようになり、嗜好の判断でも影響を少なくすることが必要と考えるようになりました。つまり、嗜好は影響の一番少ない「イの一番」に訊くことです。また、味や香りを分析的に診る訓練を積んだ専門パネルなら、部分情報を摘み上げた上で総合判定を下すことができますが、一般の消費者はそのような訓練はしていませんので無理と思った方が良いと思います。
この考えに頼もしい助っ人が現れました。ジョナ・レーラーというアメリカの心理学者が著書『一流のプロは感情脳で決断する』の中で言及しています。アメリカの『コンシューマー・レポート』誌に専門家によるジャムの評価が載りました。専門家が45品の市販のジャムを、甘さ、フルーティーさ、舌触り、伸びのよさなど16の項目についてブラインドテストで評価し、総合評価の結果を1位から45位まで順位を決めました。これを見たバージニア大学のウィルソン教授が同じテストを素人の学生に実施しました。専門家の順位が、1位、11位、24位、32位、44位の5品についての総合評価だけの結果は、ほぼ同じもので、専門家との相関係数も0・55と相関の認められるものでした。次に、ウィルソン教授は、総合評価だけではなく、印象を分析し自分の好みに対する正確な説明を求めました。すると、結果は大きく異なり、専門家との結果とも大きく外れ、相関係数も0・11と全く意味を持たない数値になってしまいました。レーラーは、重要でない事柄が気になってしまい、本能的な好みに集中できなくなってしまったと考えられています。
つまり、部分である理由は好みや総合評価に影響を与えるので、部分を訊くとしたら好みや総合評価の後にした方が良いということです。

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 ・お客さまの共感を呼ぶ感性価値の溢れた「生活DELIGHT」の商品アイデアを提供します。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。

■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。

■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを30年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。

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■□■ 発行者 日本オリエンテーション 大西・高橋・松本
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