1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

日本オリエンテーションは、マーケティングをR&Dする事務所です。
考えるヒント:メルマガ「SDP:Sensory Design Program−感性価値設計開発研究所」

【SDP:Sensory Design Program メルマガ】第11号

配信日:2013年6月3日

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■■■        官能開発のメールマガジン
■□■   ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■     発行者:日本オリエンテーション
■□■       毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.11□■
日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、同高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英 の共同メルマガです。

◆INDEX
1.『見た目と香り・味わいの評価』大西正巳
見た目は重要な官能評価項目ですが、先入観や思い込みにつながり易く、実際の香味評価に影響を及ぼします。
2.『QDAという道具の造り方と使い方』高橋正二郎
感性価値の開発は道具造りから始まり、またその道具を上手に使って実現します。道具造りは開発に適した官能変数の整備が必要で、道具使いは商品開発やマーケティングに沿った活用をすることです。

■「見た目と香り・味わいの評価」大西正巳
酒類・食品の中味の官能評価には見た目(外身のデザインや中身の状態)と情報(メーカー名・産地・製法、製品の物語、宣伝・クチコミ等)が大きく影響します。そもそも酒類や食品を飲む/食べると言うのは「身体(五感)」と「心(心理)」で味わうことです。つまり感覚的評価と感性的評価を通じてコスト・パフォーマンスを見極めていますが、どちらにウエイトをかけるかはモノのタイプや人によります。また官能方法や官能時の雰囲気、体調や感情も香り・味わいの評価結果を左右する要因です。状況によっては逆に香り・味わい(音楽や照明なども複合的に)が見た目を増幅することもあるでしょう。感覚的な評価では「視覚の優位性」と言われるように見た目が先入観や思い込みにつながり、官能のプロ でも中味の評価に影響を受け易いものです。ワインの醸造や品質の専門家が赤く着色された「白ワイン」を赤ワインとして評価したという報告や、またジュースの中味の判定実験でも中味の色を変えると正答率が下がるという報告もあります。
さて酒類の場合、グラスに入れて振ると内壁に液体が筋状(legs:足)に落ちてきますが、微量香味成分(特に高沸点成分や不揮発成分)が多く粘性が高いとゆっくりと落ちます。水で割ると水溶性の低い成分が析出し、少し白く濁った感じになることもあります。このような場合、一般的には香味的にリッチでボディが豊かな方向となり、視覚的にはフルボディ・フルフレーバーのタイプのように思えます。しかし中にはフーゼル(高級アルコール)のボディのみが目立ち、フレーバーの広がり/複雑さが乏しい単調なものもあるため、見た目で思い込むと実際の香味評価が歪められる危険性が出てきます。
また樽に貯蔵された蒸溜酒では、コハク色や液の状態(透明感や輝き)は官能評価の重要なポイントですが、それが香味の評価に影響を及ぼすことがあります。一般論としては、コハク色が濃くなるほどウッディな香味が強くなり熟成感も豊かに感じるものと思えます。しかし中にはオーク樽に由来する色や香味、収斂味は強いものの、酒そのものの味わいや熟成されたまろやかなウッディさが少ないものもあります。反対に、コハク色が薄いと未熟な印象になりがちです。しかし良質な古樽に貯蔵されたものは長期貯蔵後でもゴールド様の淡いコハク色ですが、まろやかな甘い感じと熟成感に溢れる逸品もあります。一方で、コハク色が薄い割には先香りから後味まで新材的な粗いフレーバーのみが目立ち、熟成感が伴っ ていないものも見られます。このように酒の香味特性というのは見た目以上に多彩で複雑です。中味の色合いや状態をマスクするために濃いブルーのテイスティング・グラスで官能する場合もありますが、基本的には見た目や情報に惑わされずに真正面から香り・味わいに向かう意識と謙虚さが必要です。そして様々なモノに五感で接し、官能経験を積みながらバランスよく官能力と評価力を磨き続けることが大切だと思います。

■「QDAという道具の造り方と使い方」高橋正二郎
美味しい味、素敵な香り、気持ちの良い感触などの感性価値は、官能を使って価値を開発する官能開発によって造り出すことができます。その官能開発を進めるには道具が必要で、その道具は官能評価、つまりQDAになります。ただ、官能開発に供するためには少し工夫が必要です。
目的は商品の価値を創り出すことです。QDAによって記述されたことがらが価値開発に結びつかなくてはなりません。すなわち、記述されたことがらに従ってモノを操作することで、目的を達成する訳です。つまり、記述されたことがらはモノの操作に結びついていることが必要で、操作のできないことがらによる記述では価値の開発は難しいと思われます。そのための用意する評価変数(官能用語)は、曖昧をさけるための十分な分化に加え、目的へ向かっての操作の可能性の検証が常に求められます。道具はこのようにして造られます。
こうして苦労して造ったQDAという道具ですが、使い方はもっと重要です。馬鹿と鋏は使いようという諺がありますが、まさにその通りで商品開発やマーケティングに沿った使い方があって価値の開発が実現します。企画、設計、生産、告知、販売というマーケティング・ミックスの各段階で官能開発によってえられた情報の生かし方を考えていく必要があります。パソコンに譬えれば、マーケティングというOSの上で、官能開発というアプリを動かすことになるでしょう。まず企画の段階なら、「お客さまが欲している感性価値はどのようなことか」を把握する必要があるでしょう。それらを総合して提供する価値、すなわち企画の根幹であるコンセプトが決まります。次に、コンセプトで謳った感性価値を商品に 確実に反映させるには、どのような手続きが必要か、考えなくてはいけません。
こうして、感性価値の溢れた商品が誕生する訳ですが、これで終わりではありません。感性価値はお客さまにとって最も自由に評価できる価値です。つまり、感性価値の訴求はお客さまの琴線に触れるチャンスがあることになります。感性価値の内容を精査して、共感を呼ぶ訴求に結びつけることが可能です。このような感性価値の把握から始まる、創造、告知へ続くQDAの一連の使い方を、【集・創・伝】の体系と呼んでいます。
また、QDAという道具造りから、その道具使いである集・創・伝の体系を含めた総合的な価値開発の活動が、SDP(Sensory Design Program)となるわけです。

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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。
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◆プロの知恵によるカウンセリング、コンサルティングを受けてみませんか
 ・SDP研究所の官能開発のカウセリングを導入してみてください。
 ・お客さまの共感を呼ぶ感性価値の溢れた「生活DELIGHT」の商品アイデアを提供します。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。

■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。

■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを30年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。

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